クスコは、インカ帝国時代首都として繁栄をきわめた町で、リマから空路で凡そ1時間ほど南下したアンデス山脈寄りの内陸部にある。距離数で言うなら500キロほどだから東京ー大阪間ほどの距離になる。インカの歴史については、遙かに新しい時代で、その期間も、数百年というごく短いものである。
正統派の歴史学者の説によれば、紀元後1000年前後にクスコに誕生したインカ文明は、1400年代に入って、突如として領土拡張をはじめ、北はエクアドルから南はペルーまで、南北4000キロにわたる大帝国を築きあげ、文字通りの黄金文化の華を一気に咲かせたとされている。
しかし、残された巨石建造物や精緻な石組みに見られる超高度の土木建築技術、また、当時の文化レベルやペルー南端のチチカカ湖地方との関わりなどを眺めたとき、正統派学者の説くインカ史ではとうてい理解しがたいことや、納得のいかないことが多すぎるのである。
また、インカ族の「語り部」(かたりべ)が伝える「ビラコチャ伝説」は、民族の発生を遙かに古く、原初のアンデス文明の始まりにおいており、連綿として伝わる驚くべき歴史を今日に伝えている。